● 小田全宏理事長がミッション・マウント・フジの勉強会を行いました (8月6日)
JPFの小田全宏理事長(写真左)は、8月6日(金)の17:00〜19:00に東京都港区にある青山coco-de-sicaにおいて、自らが代表を務めるミッション・マウント・フジ(MMF)の第2回勉強会を開催し、「富士山;環境保全体制への具体的アプローチ!」をテーマに、講師としてお招きした渡辺豊博氏(写真右、NPO法人富士山総合研究所事業統括)と質疑応答を展開しました。

● 以下では、その勉強会の概要をお伝えします。(まとめ:MMF事務局長 嶋瀬徹)
<小田> …以下●印の質問が小田の発言です
前回ジャンボさんから、富士山が現状どれだけ汚れているか、また、富士山を世界遺産にできるという力強い話をききましたが、富士山をどのようにして世界遺産にしていくかを、ざっくばらんにお話ししたいと思います。実際のネットワークやしがらみ、国民、行政、政治がどのように組み合わされば最短距離で世界遺産にできるのか、その具体論を話し合えればと思います。
<渡辺氏>
新聞に野口健さんは富士山でゴミ拾いをしている記事がありました。1時間半で終わったと書いてありました。そんな短時間で終わるわけがありません。しかし、富士山が弱者のように思われていますが、99%は壮大できれいな山です。全体の中に1%ほどの非道徳な人がいて、ゴミを捨てるのです。
昨日、富士浅間大社の渡辺さんとお話しをしましたが、富士山はきれいになったと言っていました。確かに、5合目から上のゴミはなくなりました。また、トイレがきれいになりました。現在バイオトイレの設置が27箇所になりまして、今後35箇所まで増える見込みです。山頂の環境省のトイレは、現在、5億5千万円かけて、バイオトイレにしています。その工事現場に私たちの仲間が行っています。
今問題となっているゴミは、産業廃棄物ですが、ずいぶん減ったといわれています。現在は、ゴミを探して拾っている状態です。いまだに捨てられているのは硫酸ピッチ、車、側道沿いに捨てられるゴミです。今までのように奥の方までトラックで運んできて捨てていくということが少なくなっています。良い方向に向かっているのではないかと思います。ゴミを拾うのは大切なことですが、現状では抜本的対策、管理基本計画がないのです。総合的、体系的環境計画がないので、環境と観光の調和、山小屋のあり方、入山料というかたちの環境税の徴収について法律ができていません。富士山立法なる総合的法律を作りたいと思っています。
環境税をとるかとらないかという議論のためには、集めたお金を誰がどのように何に使うのかということをしっかり決めなければなりません。そうしなければ、法律を施行させることができません。お金の入口、出口をはっきりさせ、理由付けをする必要があるのです。
乗鞍岳で環境税をスタートさせたという新聞記事を見ました。乗鞍岳の場合、山への入り口と出口が一つですので、入山する人すべてからお金を徴収でき、乗鞍の環境のために利用することができます。富士山は、道路建設の名目でお金を徴収しています。道路建設のためではなく、産業廃棄物処理を理由にお金を徴収してもいいと思います。
今日の新聞に、福井県のゴミの不法投棄対策についての記事が載っていました。福井県では137の市町村にゴミ処理の負担を指示したということです。私のイメージでは、富士山でもこういった仕組みができたらいいと思っています。
そのためには、富士山のゴミが、どこにどれだけあるかを明らかにする必要があります。そのために、これはまだ途中段階ですが、携帯電話にGPSをつけて、ゴミマップをつくりました。こういうことは、本当は行政がやってもいいことだと思います。きちんとゴミを調べて追跡調査すれば、ゴミを捨てた人に処理費用を負担させることだってできます。
● 5合目以上のゴミはない、と考えていいのですか?
野口健さんが先日ゴミ拾いをしたのは、青木ヶ原の中です。ゴミにコケが生えていましたので、このゴミは、10〜15年前に捨てられたものだと思います。今あるのは、古い産業廃棄物です。山梨県と静岡県あわせて300〜500トンあるといわれていますが、実際にはもっとあると思います。
行政が毎年1度行う、ゴミの掃討作戦ともいうべきゴミの調査があり、これは富士山だけではなく、県内全体を調べるのですが、過去に1,000〜3,000トンあった年もありました。その翌年は500トンくらいに減ります。これは調べるだけで除去はできていないのですが、予算立ての資料となります。1箇所のゴミを除去するには、トラック一台分で500万円ほどかかるといわれています。産業廃棄物ですので、人の力でトラックに乗せることができない大きなもの、たとえば冷蔵庫などがありますので、トラックとクレーンのような重機が必要になります。ですから、調べても、すぐに除去することはできません。しかしながら、調査すること、ゴミが投棄されているエリアに車が入れないようにして、ゴミの投棄を抑止することは近年できてきているので、この努力によって不法投棄は減っています。
● 富士山を世界遺産にすることと、ゴミの量とには関係性はあるのですか?
私は世界遺産に登録するためにはアクションプランが必要だということを言っていますが、このなかに、環境保全のためにどういう対策をするかということが盛り込まれなければならないと思います。今あるゴミをすべてなくしたとしても、また新たなゴミが捨てられるというのでは意味がないからです。ゴミと世界遺産とは、並行した問題だと思います。
● アクションプランのイメージを教えてください。
まず、はじめにゴミの絶対量を調べること。これは、富士山に関わる自治体は17ありますが、これらの地方自治体で自発的にやるべきだと考えています。調べるだけで数億円という費用がかかると思われます。
● 例えばだれかお金持ちがいて、一億円を富士山に寄付したとしたらゴミは除去できますか?
できると思います。産業廃棄物はトラックで持ってきて、林道、旧道沿いに捨ててありますからお金があればゴミを除去することはできると思います。
ただ、ゴミを個人で拾うのではなく、解決の方策を作るほうが大切です。不法投棄された産業廃棄物は、個人でゴミを拾うという範囲ではありません。抜本的な解決策を作った上でやらないと、ゴミを除去してもまた新たなゴミが捨てられるという繰り返しになり、ゴミを拾いに来てくれた人の苦労が無駄になってしまいます。市町村がどれだけのゴミがあるのかを調べて予算をたて、除去するというしくみ作りをしなければなりません。また、誰がどうやってゴミの処理をするのかということも決めなくてはなりません。
まず、全体のゴミの量と種類を調べ、そうすることで、処理費用が分かります。何が分かればゴミ処理の費用が算出できるか静岡県産業廃棄物組合に問い合わせたところ、ゴミの重さ、種類、運び出す距離、道幅などがあげられました。また、ゴミの場所が分かれば、ゴミのうち一部は焼却処分されますので、焼却場も決まります。
● ゴミの処理にはどれくらいの費用がかかるのですか?
今のままだと静岡県だけで、50〜100億円くらいかかるのではないかと思われます。今の法律はゴミを捨てた人の責任になっていますが、現状わからないので、所有者の責任にすることになると思います。山梨県側は県の所有地、静岡県側はほとんどが国の所有地ですが、例えば、1〜2割を市町村で、3〜4割を県で、半分を国で負担するようなイメージで良いのではないでしょうか。
ゴミを全部処理するとなると、50億円のお金がかかります。その予算を捻出するためにも、国会議員による富士山議員連盟というような組織を作って予算を確保してもらわなければなりません。産業廃棄物関係は、厚生労働省、富士山全体は環境庁、土地所有的には林野庁。これらをまとめて、横断的組織の形成をしてもらいたいと思っています。富士山を世界遺産に、または富士山の環境保全と銘打って、連絡調整会議など各省庁にまたがる横断的組織が必要です。その組織の中で誰がイニシアチブをとるかと考えると、環境庁になります。
● 横断的組織を作るには、ある程度の絵を書いてあげないと、進まないと思うのですが?
いま、その絵を作って山梨、静岡の地元国会議員に根回しをしています。
● 現状はゴミの調査、処理をすることですが、未来永劫にわたって富士山を保存するというイメージはありますか?
50年後のイメージとしては環境と観光が調和した山にすることです。富士山観光で商売をしている地元人たちの生活もあるのですから。それ以外にも、山小屋をどうするか、周辺環境、景観をどうするかという細かな問題もあります。観光も、どのような観光を目指すのかというビジョンが必要です。ただ遊んで帰る観光地なのか、グリーンツーリスムのような、自然を楽しむような観光にするのかという議論も必要です。また、富士山スカイラインをなくし、車を5合目まで行かないようにするという事が可能かどうかという議論をしていきたいと思っています。
● 富士山スカイラインをなくすという事には、強い反発があると思いますが?
はじめからそれを出して議論しようとしても進みません。観光の有り方として、スイスのように二酸化炭素の出ない登山電車でいくという方法もある。というような保全型の仕組みを盛り込むことで議論していかなければならないと思います。
● 富士山の世界遺産暫定登録は何年後と考えていますか?また、それまでに、ゴミの問題のほかに、環境保全についてどのように議論していきますか?
暫定登録は3年後の2007年を目指します。
富士スカイラインの通行料は、スカイラインの建設費として徴収していましたが、建設費はすでに回収されています。それで、通行料をなくしてしまうと、更に人が来てしまうのではないかという理由で、徴収を続けています。そのお金で5合目に50億円掛けて駐車場を作るという計画がありました。それを20億円まで縮小してつくりましたが、現在駐車場のためにお金を徴収しています。
静岡県側では、1合目に駐車場をつくりました。そこからは、バスかタクシーで登るようになっています。山梨県では、登山鉄道、ロープウェイのルート設定、また、山小屋の下水道整備について調査をしましたが、その調査結果は公表されていません。県側には情報開示の義務があるので、この調査結果を公開請求し、その情報を一つの検討材料として使いながら大学の先生など専門家の指導のもと、環境工学、交通工学の知識を取り入れ、駐車場を含めた交通体系や、ホテルやバンガローなどの周辺宿泊施設の人の流動形態、交通の流れなど、全体を見て計画をしていけると思う。
● アクションプランの中で環境保全の立場からは何が必要ですか?
ニュージーランド、マウントレーニなど視察すると、環境教育がきちんと行われています。マウントレーニ国立公園は12万haありますが、そこに230人のレンジャーがいます。この広さは富士山と同じくらいの大きさです。日本では国内全体でレンジャーが200人です。アメリカ国内には2万人のレンジャーがいます。また、アメリカ国内には国立公園が53箇所、日本国内には23箇所あります。場所の数は2倍ですが、人の数は100倍です。予算も大きく違い、150〜200倍の差が有ります。いかに環境省にお金がないか、いかに日本では国立公園の環境保全が認められていないか、ということがよくわかります。
マウントレーニでは、入山する人に、2〜3時間の環境教育、マナー教育をする仕組みがあります。入山するすべての人にこの教育をするわけではないのですが、ゴミは落ちていないし、マナーも守られています。そのわけは学校教育にあると思います。レンジャーやNPO団体がシアトルの小中学校を廻って、マウントレーニはどういう山か、どれだけ希少性のある山か、どういうマナーが必要かということを教育しています。
山梨県の富士山が目の前に見える足和田村の小中学校の生徒130人にアンケートしたとこと、富士山に登ったことのある子供はたったの13%でした。この子供たちは富士山のことは知らないし、山登りにどんなマナーが必要なのか知りません。そして、教えてくれる人もいないのです。
● レンジャーを200人ぐらい整える必要性のほかに、登山者に教育をするということをどのように進めたらよいでしょうか?
極端な話をすると、富士山スカイラインの料金所よりも手前に富士山の教育施設を造って、入山する前に教育をするとか、これは仕組みの話になりますが、国の職員だけではなく、NPO法人と共同して環境教育を進めるのがいいと思います。マウントレーニではそのようにして多くの人が関わっています。また、日常の学校教育の中で環境保全を教えるカリキュラムを取り入れてほしいと思います。
これは文部科学省の仕事です。富士山を世界遺産にすることには直結しないかもしれませんが、こういう視点もマネージメントプランの中に入れていかなくてはいけないと思います。私が富士山が変われば日本が変わる。といっているのは、富士山でこういった仕組みを作れば日本中に広がっていくと思っているからです。
阿武隈川や北上川では、国土交通省に頼まれて3000〜4000万円の委託で、流域全体にNPOがゴミ箱を作っています。しかしながらゴミ箱を作って終わってしまっています。流域全体のゴミを処理する仕組みができていないのです。富士山で責任を明確化した仕組みをつくればそれが全国に広がっていくと思うのです。
また、し尿の問題も同じです。富士山は、バイオトイレできれいになってきていますが、さらに小さく軽くして、簡単にもっていけるようなバイオトイレを開発しようと思います。
携帯トイレを使ってみたことがありますか?山に入るときには携帯トイレを持っていきなさい、と言う人がいますが、なかなか使えるものでは有りません。でも、アメリカでは、携帯トイレの使い方を学校で教えているのです。教材としていろんな携帯トイレがあり、使い方を教えています。こういった山のマナーや山の登り方などの自然に入る作法をまとめたブックレットなど作ったら言いと思います。これには大きなお金もかからないし難しくないと思います。
誰の責任で管理運営するのか、いかに一元化するのかも問題です。省庁の中に富士山対策室などといったプロジェクト室みたいなものを設置したいと思います。これは国で作ればいいと思います。県の職員が出向で出向く、また、富士急行などからも出向したらいいと思います。
● その組織に年間どれくらいの費用がかかると思われますか?
年間10〜20億円かかると思います。
● この金額はどこからでるのですか?
国で払えばいいと思います。富士山砂防事務所というのがあります。ここは年間300億円使っています。今はあまり仕事がないので、この予算を使えると思います。
● 富士山への観光客から入山料を徴収することは、どのように考えていますか?
基本的に国民は税金を払っています。今は仕組みが無いので税金が富士山にお金が使われていません。県、市町村は散発的に使っているだけです。静岡県は2000万円くらいしか使っていません。産業廃棄物も見て見ぬふりです。ですから、まず税金の中から富士山の基本的な対策にお金を使っていったらいいのではないかと思います。入山料というかたちでお金を集めると、お金の管理にお金がかかってしまいます。
乗鞍ではじめた入山料はお金の管理を観光協会に委託しているのですが、6割は人件費、環境のために使っているのは2割もありません。
税金は非常に非効率です。職員の給料や諸経費に多くが使われてしまうからです。行政が富士山のためにお金をとっても、税金と同じように非効率になってしまいます。
そうではなく、NPOや財団法人にお金が廻るようにしていくのがいいのではないでしょうか。富士山基金のようなものを作って、富士山界隈に来る観光客3,000万人から一人10円、100円というふうにして徴収するのはいいと思います。
外国の話になりますが、ニュージーランドの場合、登山者から直接的にお金は取っていません。観光業者からとっているのです。観光業者は登録制になっていて、毎年何人連れて行ったかを申請させて、そこからお金をとるのです。嘘の申請があった場合は、観光業者の登録を抹消されます。日本でもそのようにしたらいいのです。富士山に向かうバスの中で、人が入ることで富士山にかかる負担や、環境保全のための入山料について説明したビデオを見せて、理解をしてもらえばいいと思います。だれも文句は言わないと思います。またお金の徴収は観光業者からするのがいいでしょう。観光業者は旅行者からお金を徴収しています。旅行の定款に一行、旅行代金には富士山のための100円が入っていると書き加えればいいのです。旅行の定款を管理しているのはJATANで、話ができればそれでお金が徴収できると思います。
● 実際に登る人からとるというのはどうですか?
バイオトイレでは、お金を払ってもらうようにしましたが、20%の人しかお金を払ってくれませんでした。法律の裏づけもないのに、何でお金取るのかという批判がありました。お金を取るということは、アカウンタビリティや何に使っているのかという部分で、いろんな意味の批判を受け、追われてしまいます。
● 富士山基金として、登って来た人にからお金を徴収するのはいかがですか?
おそらく5%くらいの人しか払わないと思います。法律的なことを説明しろなどといった社会的批判が巻き起こると思います。段階的に物事をすすめなくてはいけません。水源税、環境税というものを始めたところがありますが、高知の四万十川流域では、水源税を徴収するために、5年も前から地域に入って説明をし、何度も議論して、やっと四万十川流域のみで500円の環境税を導入しました。日本には新しい税金を取ることに対する文化、意識がまったくありません。
● 日本人の意識の転換があったらどうですか?
環境教育の中で、環境に負担を掛けているから環境税は当然というになれば、問題なく進められます。ただ、日本中の山に話が広がってしまいます。そうすると、なぜ富士山だけ?という話になってしまいます。ですから範囲を決めなくてはなりません。もらったお金をどこに使うのかという範囲を明確化することが必要です。行政ではそういった徴収の仕方ができません。無理の無い範囲で旅行者を中心にとるというところから段階的に進めていくのが良いでしょう。富士山の地下水を使っている企業からお金を徴収するという方法もあります。
|

|
|